なぜ給与が上がらないのか?様々な背景踏まえ、年収がなかなか上がらない理由を説明します。

目次
高待遇な企業はほんのわずか
まず給与が上がらない理由として、そもそも「待遇が良い企業(平均給与が高い会社)」は多くはない点があげられます。中小・中堅などの「世の中でありがちな企業」では、ペースよく昇給することは難しい状況です。
待遇が良い企業
23歳 350万 → 25歳 450万 → 28歳 600万 → 30歳 700万 → 34歳 900万 ・・・
世の中でありがちな企業
23歳 300万 → 25歳 350万 → 28歳 400万 → 30歳 450万 → 34歳 550万 ・・・
待遇が良くない企業
23歳 300万 → 25歳 310万 → 28歳 350万 → 30歳 380万 → 34歳 420万 ・・・
23歳 220万 → 25歳 280万 → 28歳 300万 → 30歳 320万 → 34歳 350万 ・・・
そんな中、「高待遇な企業」は給与水準が高く、非常にペースよく昇給していくものの、企業数としてはほんのわずかとなります。高待遇な企業は、当然労働者から非常に高い人気があり、入社難易度は非常に高いです。選考は精査されるため、宝くじのように偶然当たる事はありません。
高待遇な企業
23歳 450万 → 25歳 600万 → 28歳 800万 → 30歳 900万 → 34歳 1100万 ・・・
社員の給与は環境の影響を強く受け、相場の範囲内になる
社員の給与は環境の影響を強く受けます。企業の給与水準の影響を強く受け、「地域・業種・会社規模・職種」などの相場からの影響を強く受けます。
主な相場・環境
・地域
・業種
・会社規模
・職種
・業務の経験年数
・その他(年齢、性別、学歴、人の価値観)
また企業側は「採用可能なギリギリの給与」を設定します。300万の価値に対して、無意味に400万支払ったら無駄金を支払う事になってしまいますよね。特に給与水準が低い環境で給与を上げる事は非常に難しいです。仮に社内の該当部門の給与が400万前後の場合、高めな給与(例えば500万、600万)に昇給することは困難ですし、転職者として入社するのも難しいでしょう。
また給与水準は単独の企業のみならず、外部の類似企業も意識され、相場の範囲内に収まっていきます。(例:この地域、この業種、この職種であれば、このくらいの給与。) 自分の能力や成果とは無関係に環境から強い影響を受け、相場の範囲内に収まります。
そして住んでいる地域から移住できない「地域縛り」、自分ができる仕事が限られる「業種・職種縛り」が存在し、環境の変更は簡単ではありません。このような縛りも給与が上がらない要因です。縛りがある以上、どんなに成果を上げても、どんなに優秀でも、給与を上げる事は困難となってしまいます。
他の労働者と徹底的に比較される
企業はお金に非常に厳格であり、給与は他の労働者と徹底的に比較されます。社員同士で露骨な競争をするわけではありませんが、企業の給与水準や相場などに基づき、他の人と比較されます。悪い言い方をすれば、替え玉が沢山いる状態だと簡単に比較されてしまい、競争が激しくなってしまいます。そして同じ業務を担える人は他にも存在する場合が多く、相場より上げるとなると、よほどの理由が必要になります。
仮に採用が難しいとされる専門職・管理職の場合で、自分の周囲にそのような人がいなくても、外部には意外と存在する場合が多いです。例えば対象者が非常に少ない医師だとしても、「1000人に2人弱くらい」います。ちょっと難しい程度の仕事であれば、「100人に1人、10人に1人」など、対象者はもっと多くなっていきます。
また新卒でも1,2年で同等のスキルを身につけられてしまうような仕事であれば、給与を上げていく事は非常に困難です。他の人と比較された際、同じくらいと判断されてしまいます。
ベテラン:「自分がやっているような難しい仕事は、他の人にはできない!」
↓
社内の人は歯が立たないが、外部から来た人はスムーズにできた。
ベテラン:「この仕事が新人にできるわけない!」
↓
新卒入社1,2年後にはほぼ同等の仕事ができた。
また仮に成果が他の人の1.5倍以上であっても、残念ながら給与が1.5倍になることは基本的にありません。給与は短期的な成果では決まらず、長期的な成果、かつ企業が定めたルールにより給与が決まります。そのため、成果が非常に高い人でもルールから強い影響を受け、給与が上がらないケースは多いでしょう。
歩合制営業などでは成果が高い場合、相場に左右されず大きな報酬を得られる場合もありますが、そのような企業はわずか一部です。歩合制のような仕組みは、成果が少ない場合、非常に低い給与となってしまい、普通の人にはまったく向きません。
社員の給与は、中長期的なメリット・デメリットが考慮され、検討されます。そして結局は個々の従業員の詳細なメリット・デメリットまで把握・管理する事は不可能なため、ザックリで相場周辺の給与水準になってしまいます。
企業にお金の余裕がない
給与を上げられない理由の一つとして、企業が十分に儲かってなく、給与原資に余裕がない点があります。
「競合が多く、強みが少ない事業」を展開する企業は、利益率が低くなる場合が多く、給与原資も多く確保できません。特に規模が大きくない企業は、利益率が非常に低い場合が多く、お金に余裕がありません。参考までに企業が儲かったお金を労働に配分する割合を示す「労働分配率」は、中小企業で80%前後、大企業で50%前後です。(参考: 内閣官房 賃金・人的資本に関するデータ集) 中小企業の方が分配率が高く、余裕が無い事がわかりますよね。つまり世の中の多くの会社は給与原資が潤沢ないため、積極的に給与水準を上げることはできません。カツカツな状態です。
多少お金の余裕が出た場合、賞与で社員に還元していく企業もありますが、多くの企業では社員の給与アップにはあまり回されません。給与アップは投資効果が得にくく、保守や将来への設備投資、リスクヘッジなどに回される事が多いです。
また給与アップは、「一度固定給を上げてしまうと簡単に下げられない」、「来期以降の意識が必要なため、賞与でも簡単に上げにくい(変動が激しいのは良くない)」、「多くの社員の給与を上げると合計では非常に大きな金額になる」などの懸念があります。なので相当な金銭的な余裕が生まれない限り、給与水準を上げていく方針にはなりません。
社員の給与は「職位・年齢(在籍年数・経験年数)」で決まる
社員の給与は、「スキル」「成果」が重要となる場合はありますが、多くの企業では「企業のタイプ(業種、企業規模)」、「在籍年数」、「職位」が重要となります。つまり、どんなに成果が高い人でも、年齢が若ければ、多くの企業では給与はさほど高くなりません。
「職位」は「企業のタイプ」によって大きくスタンスが異なり、給与水準も異なります。同じ「課長の職位」でも「企業タイプ」によって給与水準は雲泥の差がある場合があります。
イメージ
・大企業、30歳、主任、700万
・ITベンチャー、28歳、プリセールス、600万
・中小企業、30歳、部長、600万
・中小企業、26歳、リーダー、400万
・飲食企業、27歳、店長、450万
・大規模店舗企業、34歳、店長、800万
歩合制を採用する企業やベンチャー系企業の一部・外資系などでは、年齢が低くても成果さえ出せば高い給与を出す企業は存在しますが、世の中に存在する多くの企業は、そうではなく「職位・年齢(在籍年数・経験年数)」が重視されます。多くの日本人が信じている価値観・習慣のため、変えようがありません。
そのため、仮に若い人が鋭い成果を出しても、多くの企業では「労い(ねぎらい)の声だけ」、「職級が上がっても、給与としてはわずか」のようになってしまい、給与を強く意識する人には微妙な環境です。そのため、若くて能力がある人は、頑張っても給与が上がらないため手を抜いていき、周囲と似た成果に近づく現象もあるでしょう。無理して成果を出しても、普通の人と給与が同じでは、モチベーションが上がりません。
ガツガツ競争するのではなく、周囲と協調して同じくらいの成果を出し、同じくらいの給与になるのが、日本の労働スタイルです。
お金だけでは良い人を募りにくい
日本の一般的な企業では、会社規模に関わらず、完全な未経験の新卒を受け入れ、長期雇用する企業が多いです。また労働者は高い給与だけを目的に働くわけではなく、仕事内容や無難な環境なども重視します。つまりお金だけでなく、環境も人を定着させているという事です。そして日本では転職の習慣が少なく、企業側も転職者の採用に消極的です。その結果、お金だけで良い人を募りにくくなっている傾向があります。
「給与をとにかく高くした方が良い人が集まるのでは?」と思うかもしれませんが、条件が合わないと給与で良い人を釣る事はできません。高い給与設定が効果的なケースは「一部の企業・一部の人」しか該当しません。
優秀な人はどちらを選ぶ?
・零細企業、モラルの低い経営者、問題が多くキツイ仕事、年収600万
・大手 or 大手子会社の無難な仕事、常識的な人達、年収450万 → 一般的な価値観ではこちら
給与水準が高い方が優秀な人は集まりやすい可能性はありますが、お金で釣っていくとなると「お金で釣る習慣のある業種・職種」である必要があります。
高い給与が効果的なケース
・歩合制営業
・給与相場が高い仕事
(医師、会計士、事業責任者、財務責任者、専門性が高いコンサルタント・PMなど)
・転職者が多く給与が高めな業界・職種(IT、外資系企業、不動産、専門商社)
・多くの社員に高い目標を設定する企業
・給与水準が高いことが認知されている企業
高い給与の効果がないケース
社長:IT事業に興味がある。できるエンジニアが欲しい。年収は1000万出す。
候補者:能力が不十分な人、スキルのジャンルが違う人、後ろめたい理由で転々とする人
労働者は「自分が好む環境※を優先し、そのうえで給与条件がある程度良いところを選ぶ人」が多く、また「良い人が常に高い給与を希望するわけでもない」ため、やみくもに給与を高く設定しても良い人は採用できません。給与水準が普通の企業で、突然一部の職種で高い給与設定で募集する場合、”能力的に微妙な人”を高い給与で採用してしまう可能性もありますし、高い給与の人を活かす会社の体制も必要になります。
環境の例
・会社知名度、会社規模
・事業内容、将来性
・職種、業務内容
・業務負荷、労働時間
・働く人(コミュニティ)、会社の価値観
・場所
そのため、お金をどんどん出せば良い人を集められるわけではないため、企業は積極的に給与を上げない状況です。もし給与だけで能力がある人を雇える状況であれば、企業はもっと積極的に給与水準を上げていくでしょう。諸々の事情について企業は熟知しており、人の層に合った給与水準が検討されていきます。
日本の労働基準法は解雇に厳しい
企業が給与を上げにくくなる大きな要因の一つとして、日本の労働基準法が解雇に厳しい点があります。日本でしっかり労働基準法を守った場合、仮に赤字になった場合や従業員の成果が悪い場合でも、正社員は簡単に解雇する事はできません。減給に関しても正当な理由が必要です。
そのため、日本の企業は気軽に正社員を雇ったり、高い給与で採用する事はできません。労働基準法を守るには、長期雇用が可能な人材しか採用できませんし、お試し的な採用ができません。期間契約の契約社員であれば、お試し採用も可能ですが、あまり流行ってない状況です。新卒を契約社員で沢山雇って、仕事についけない人を契約解除していったら、世間からは問題だとみなされてしまいます。
また継続的に給与を支払える必要があり、安易に高い給与にする事は企業にとって大きな懸念となります。例えば、個人で家を買う際、欠陥住宅だと取り返しがつかず、非常に困りますよね。もし「外れクジ」を引いてしまった場合、大きな損失となってしまうため、企業は採用・給与アップに慎重になります。
そして解雇・減給の習慣が無いため、企業が給与を上げるには大きな余裕が必要になってしまいます。結果的に企業は非常に慎重で保守的になります。
ただし中小企業中心に、法令を遵守していない企業は珍しい事ではなく、公的機関も強い取締りをしません。企業によっては、退職や減給、解雇が状態化し、「経営者のエゴ」と「質の低い労働者」のぶつかり合いとなっているケースも存在するでしょう。
日本の労働基準法は、一見労働者保護に手厚い法律ですが、「法律が守られていないケースは多い(グレーゾーンも多い)」、法律の影響の結果、「雇用の流動性が落ちる」、「労働者が一旦軌道から外れてしまうと復活しにくくなる」などのデメリットがあります。
給与が上がりやすいパターンまとめ
給与が上がりにくい理由を説明しましたが、給与が上がりやすいパターンは以下の通りです。
・待遇が良い企業(平均給与が高い会社)への入社
待遇が良い企業への入社は理想ですが、良い環境が整っている分、入社難易度は高くなります。特に一般的な仕事は応募が非常に多く、競争が激しいです。
・成果が高い人を評価する企業で成果を出す
成果が高い人で会社がそれらを評価する企業の場合、該当する人は給与が上がりやすいです。成果が高いだけではなく、企業がそれらを評価してくれる点が重要です。
・役職者が高待遇の企業で自分が役職者になる
会社の平均は低くても役職者は高待遇の場合は存在します。自分が役職者となれば給与を上げる事ができます。
・その他イレギュラー
イレギュラーとして会社のオーナーや決裁者との距離が近く(親族、友人)、待遇が良いケースが存在します。
結局どれも簡単ではありませんね・・・。ただし、一部の人は企業が求める能力と合致する可能性もあります。特に転職の場合は、何らかの分野で鋭い専門性を持つ人は有利です。また地域縛りがある場合、最近ではリモート勤務の可能性もあります。何らかの縛りがある場合でも、諦めずに可能性を模索するのがお奨めです。
そもそも給与を上げる必要があるのか?
ただし、そもそも給与を上げる必要性は人それぞれです。誰でも給与が高い方が良いですが、高い給与でも、「仕事が大変」、「ストレスが大きい」、「高い給与を実現するまでの労力が大きい」などのデメリットも存在し、総合的に見てマイナスになってしまう可能性もあります。
また仮に給与が上がっても税金も上がってしまい、入ってくる現金で見た場合、あまりインパクトはありません。年収200万の人と年収400万の人を比べると違いを感じますが、年収500万と年収700万を比べた場合、同じ200万の差でも入ってくる現金は減ります。多少の収入アップで出費がルーズになり、簡単にお金が無くなっていってしまう人もいるでしょう。
そして会社員である以上、基本的に限界があり、また人によって状況はまったく違うため、自分が納得できる価値観で選択していくのが良いでしょう。収入が高い方が幸福度が上がるとも言えず、個々の価値観次第です。
様々な価値観
・高待遇の企業で給与だけを上げていく
・副業・兼業で高い収入を狙い、ガツガツ収入を増やしていく
・会社からの給与にはこだわらず、収入は投資に頼っていく
・幸福度を重視し、会社からの給与+ちょっとした副業でやっていく
・給与は高くなくても好きな仕事、価値観の合う人達と働く
・独立のスキル習得のために一時的な給与ダウンは気にしない